世界文学の名作を読む


1.イギリス

(1)高慢と偏見(オースチン)-財産を持った独身の男ならば妻をほしがっているに違いないというのは世間一般の真理である

・田舎町のロングボーンに住む地主のベネット夫人の最大の関心事は5人の娘の結婚だった。長女のジェーンは素直で心やさしい性格の持ち主で、近所に越してきた好青年のピングリーを愛するようになるが、慎み深く心を隠していた。次女のエリザベスは古い慣習にとらわれない自由で快活な娘で、ピングリーの親友のダーシーに好かれていた。しかし、エリザベスはダーシーが高慢で、ベネット家の者を見下しているという第一印象にこだわって、事あるごとに彼の差し金と疑わずにいられなかった。一方、ダーシーも自分の方がベネット家よりも高尚であるというプライドに煩わせられて、エリザベスに対して素直になれなかった。結局、二人はお互いの誤りに気付き、エリザベスはダーシーのプロポーズを受け入れ、ジェーンもピングリーと結婚して、幸福な結末となる。

(2)嵐ケ丘(エミリ・ブロンテ)-30才で他界したブロンテ姉妹の次女エミリの残した唯一の小説

・ヨークシャーの荒野に建つ屋敷「嵐ケ丘」の主人のヒースクリフは、先代のアーンショーがリバプールから連れてきた孤児で、彼の二人の子供ヒンドリーとキャサリンと一緒に育てられた。ヒースクリフとキャサリンは打ち解けたが、ヒンドリーはヒースクリフを虐待し、先代の死後、彼を召使いのように扱うようになった。キャサリンはヒンドリーの支配する泥沼のような生活から逃れようと、隣家のリントンの結婚の申込みを受け入れる。彼女に裏切られたと思い込んだヒースクリフは突然姿を消す。三年後、復讐のために嵐ケ丘に戻ってきたヒースクリフは、ヒンドリーを賭博に誘って財産を奪い、彼の子供ヘアトンを虐待し、リントンの妹イザベラと駆け落ちする。キャサリンはヒースクリフの妄執に心身衰弱し、女児キャサリンを生んで死ぬ。その後もヒースクリフの復讐は収まらず、息子のリントンとキャサリンを結婚させてリントン家の財産を奪う。その後、ヒースクリフは病みつかれて4日間何も食べずに死に、キャサリンの墓のとなりに埋葬される。残されたキャサリンは、ヘアトンと結婚する。

(3)ジェーン・エア(シャーロット・ブロンテ)-ブロンテ姉妹の長女が自ら愛を告白する近代女性像を描いた先駆的作品

・両親を失い、冷淡な叔母のもとで育てられたジェーン・エアはローウッドの寄宿学校へ送られる。規則に縛られ心休まることなく6年間生徒として過ごしたジェーンは、2年間教師を勤め、18才の時ソーンフィールドに家庭教師として雇われて行く。彼女はそこで初めて心の安らぎを得る。素直な生徒のアデュル、親切な管理人のフェアファックス夫人、そして醜男ながらも心優しい主人のロチェスター。しかし、屋敷の奥から不気味な笑い声が聞こえ、次々に起こる奇怪な現象にジェーンは不安を募らせる。夏のある晩、彼女はロチェスターに愛を告白し、2人は結婚の約束を取り交わす。結婚式の当日、ロチェスターには狂人の妻がいて、屋敷に匿われていることが判明し、ジェーンは邸を去る。夏の夕方ジェーンが再びソーンフィールドを訪れると、屋敷は狂った妻の放火で焼け落ちて廃虚になり、夫人は身を投げて死に、ロチェスターは盲目となり廃人のように近くの農場で暮らしていた。ジェーンはロチェスターに手を差しのべ、彼と結婚し、真の幸福を得るのであった。

(4)二都物語(ディケンズ)-フランス革命を背景にパリ、ロンドンを舞台に展開される歴史小説

・デヴレモンド公爵に係わり無実の罪を着せられて18年間牢獄生活を送ったマネット医師は、釈放されてロンドンで美しい娘のルーシーと暮らしていた。ルーシーを慕っていた弁護士のシドーニ・カートンは、彼女がフランスから亡命してきた貴族チャールズ・ダーニーと婚約していることを知る。カートンは酒のみでだらしのない男であったが、正義感が強く、二人の結婚を祝福するようになる。マネットにかつて世話になったことがある酒場の経営者ドファルジュ夫人は、一家が公爵に迫害されため極端に貴族を嫌い、人々に革命の必要性を煽っていた。ダーニーは公爵の召使いのガベルが投獄されるのに義憤を感じて、パリに戻り逮捕さる。彼はマネットの労により無罪になるが、貴族を恨むドファルジュ夫人がマネットが入獄中に書き留めた文書を持ち出して、ダーニーが伯爵の血族であることを証明したため、結局死刑を宣告される。悲嘆するルーシーの心を察してカートンは自らダーニーの身代わりになり処刑される。

(5)クリスマス・カロル(ディケンズ)-スクルージの人生観の変化を通じて心の豊かさと愛情の大切さを語る感動の名作

・スクルージ老人は偏屈で金儲け以外に興味を持たない仕事の亡者であった。クリスマス・イブの夜、スクルージの家に7年前になくなった仕事仲間のアマレイの幽霊が現われ、改心しなければ死後、自分のように鎖を引きずって時空を彷徨わなければないことを忠告し、3人の幽霊が彼のもとに現われることを伝える。最初の幽霊はスルージを過去の世界に連れて行き、彼の過去がどんなに恥ずかしいものだったかを見せる。次の現在の幽霊は、スクルージを甥のフレッドや書記のボブの家庭に連れて行き、貧しいながらも幸せに暮らす彼らの様子を見せる。最後の未来の幽霊は、一人も悲しむ者がいない寂しい彼の死の場面を見せる。クリスマスの朝、目覚めたスクルージは善人に生まれ変わり、人々に明るく接し、愛されるようになった。

(6)サイラス・マーナー(エリオット)-「大人のお伽話」として広く愛読される女流作家ジョージ・エリオットの代表作

・サイラス・マーナーはラヴィロウ村の石作りの家に一人住み、織物して生計を立てていた。癲癇の持病を持ちで目が飛び出した風貌をした彼は、過去に教会で知り合ったセアラと婚約していたが、親友のウイリアムに裏切られて盗みの罪を着せられ、婚約を破棄されて前の土地を追われたのだった。サイラスははた織りで得た金を蓄えて一人満足していたが、ある雨の降る晩、家を空けた隙に、カス家の次男のダンシーにその金を盗まれてしまう。その日以来ダンシーは行方不明になり、兄のゴトフリーは父親に渡す小作料を弟に貸したことを話す。ゴトフリーには隠し妻と娘が1人いたが、雪の降る晩、村に出てこようとして、途中で母親は凍死し、娘はサイラスの家に迷い込んだ。その子はエピーと名付けられサイラスに育てられる。16年後干上がった石坑の中からダンシーの遺体とサイラスの金が見つかる。ゴトフリーはサイラスに自分がエピーの父親であることを告白するが、エピーは養女の申し入れを断わり、村の青年エアロンと結婚することを決める。

(7)ジ-キル博士とハイド氏(スチーブンソン)-人間の心の奥にある善と悪の二面性をテーマとした怪奇小説の傑作

・ロンドンの街角で一人の小男が少女にぶつかり、その子を踏みつけようとしたために取り押さえられた。ぞっとする顔つきをしたこの男ハイドは、路地の古い家に入り、近くに住む医師のジーキル博士の署名のある100ポンドの小切手を差出し慰謝料を支払った。弁護士のアタスンは、その話を聞いて心を痛めた。ジーキルから預かっている遺言状の受取人がハイドになっていたからだ。1年後、ハイドはテムズ河畔で上院議員をステッキで殴り殺し、失踪した。その2ヶ月後、ジーキルの友人のラニヨン博士が、ジーキルの死後開封する条件付きの遺書を残して病死した。アタスンはジーキルの部屋を押し破って入り、そこでジーキルの服をまとったハイドの死体を発見した。アタスンはラニヨンの遺書とジーキルの告白書から、ジーキルが自己の悪を独立の人間ハイドとして変身させることができる薬を開発したが、次第に善悪のバランスが崩れ、ジーキルに戻ることができなくなり、破滅に至ったことを知る。

(8)ドリアン・グレイの肖像(ワイルド)-美のはかなさと残忍さを描く、ワイルドの快楽/唯美主義の頂点をなす名作

・花の香りが立ちこめるバジル・ホールウォードのアトリエでは、ちゅうど美貌の青年ドリアン・グレイの肖像画が完成したところだった。そこにドリアンが現われ、彼は「若さこそ、持つべき値うちのあるもの」というヘンリー郷の語る唯美主義論に魅せられ、「自分の代わりに、この絵が年をとってくれるのならば、魂さえ惜しまない」と願う。ドリアンは芝居小屋の女優シビルと恋仲になるが、彼女が彼を愛するために演技力を失ってしまったのを見て、婚約を取り消してしまう。その夜、ドリアンは自分の肖像画に残忍な歪みが現われているのを見つけ、シビルとの結婚を決意するが、彼女はすでに自殺してしまっていた。その後ドリアンは快楽に溺れ、悪に身を染め、彼を諫めにきたバジルを殺害する。シビルの弟ジェイムズは彼を追い詰めようとして、ヘンリー郷の狩猟場で誤って撃たれてしまう。ドリアンは自らの人生を恥じ、自分の人生を翻弄してきた肖像画を破ろうとナイフを突き刺した。悲鳴を聞いた召使いが部屋に入ると、壁には最後に見たままの美しいドリアンの肖像画が架かり、床には胸にナイフを刺された皺だらけのドリアンが倒れていた。

(9)テス(ハーディ)-純粋無垢の心を持つがゆえに運命に操られ殺人を犯してしまうテスの悲劇を描く

・マーロット村に住む行商人ジョン・ダービーフィールドは、牧師から自分が名家ダーバヴィル家の血を引いていると聞き、酒浸りになっていた。長女のテスが代わりに荷馬車を引いている時に事故で馬が死に、一家の生活は苦しくなった。テスは遠縁のダーバヴィル家に奉公に行くが、そこで息子のアレクに誘惑され、身籠って家に帰される。生まれた子供は間もなく死んでしまい、テスは遠く離れた牧場で乳しぼりとして働き出す。そこで彼女は牧師の息子エンジェル・クレアと知り合い、二人は愛し合うようになる。結婚式の夜、テスはアレクとの一件を語ると、エンジェルは彼女を捨ててブラジルへ旅立ってしまう。父の死のために家に帰ったテスは、説教師になったアレクと再会し、家庭の苦境を救うために彼の保護を受ける。自らの誤りに気付いて帰国したエンジェルを見ると、テスは発作的にアレクを刺し殺し、エンジェルと逃避を続ける。しかし、ついに二人はストーンヘンジで追い詰められ、捕えられたテスは7月のある朝、処刑される。

(10)闇の奥(コンラッド)-自らの体験をもとにアフリカのコンゴ川奥地の暗黒世界を緻密な表現で描く海洋小説の傑作

・フランスの貿易会社に雇われた船乗りのマーロウはアフリカの奥地に派遣され、川の上流にある象牙採取の出張所の主任クルツの救出に向かう。ジャングルに覆われた暗闇がどこまでも続き、恐怖に駆られる中、大河を上った船は黒人の襲撃を受けた。驚いたことにそれは、彼らからクルツを奪おうとするのを阻止しようとしたものだった。クルツは黒人たちを威圧するように支配していたが、病に倒れて瀕死の状態で、帰路に着いた船上で「地獄だ。地獄だ」と発して死ぬ。パリに帰ったマーロウは、クルツの婚約者と面会する。クルツの臨終の様子を聞かれたマーロウは、闇の世界を知らずに、ひたすらクルツの愛を信じ続けている娘の心を推し図り、「彼の最後の言葉は貴方の名前でした」と嘘をつくのだった。

(11)林檎の樹(ゴールズワージー)-到達し得ぬ理想郷の象徴としてギリシャ神話に歌われた林檎の木をテーマとした哀話

・銀婚式の日、アシャースト夫妻は彼らが出会った思い出の地トーキーを訪問した。26年前、大学を卒業したアシャーストは徒歩旅行でこの地を訪れ、膝の腫れが引くまで一軒の家に世話になった。彼はそこで純粋な少女ミーシャと知り合い、二人は恋心を抱くようになった。ある晩林檎の樹の下でミーシャと待ち合わせたアシャーストは、彼女をロンドンに連れて行くことを約束する。翌日、ひとりトーキーの町に買い物に出かけたアシャーストは、中学の同級生のハーディと3人の妹たちに会う。彼らと海水浴に出かけたアシャーストは溺れかけたハーディを救う。彼は滞在を延ばして行くうちに長女のステラに引かれようになりミーガンとの結婚ができないことを悟り、ロンドンにハーディたちと一緒に帰り、1年後ステラと結婚する。26年後アシャーストは林檎の樹の下で、ひとりの老人からミーシャが小川で自殺し、十字路にある墓に埋められたことを聞く。

(12)人間の絆(モーム)ーフィリップの魂の遍歴を描く自伝的長編小説

・フィリップは幼少の頃に両親を亡くし、牧師をしている伯父の家に引き取られた。彼は聖職者の息子たちが行くキングス・スクールに行くが、生来の肉体のハンディ(蝦足)を級友たちから嘲笑され孤独な日々を送る。その後、フィリップはオックスフォード大学への進学を勧める周囲に逆らって、ドイツに留学する。1年後、帰国した彼は会計士の事務所に勤めるが、単調な仕事に嫌気が差し、パリに絵の勉強に出かける。画家になる夢は破れるが、ボヘミア的な生活を通じて知り合ったクロンショーから「人生はじゅうたんのようなもので何の意味もない」と教わり影響を受ける。ロンドンに帰ったフィリップは医学校に通うようになるが、食堂のウェートレスのミルトレッドに心を奪われ、彼女に翻弄される日々が続き、学業は半ばで挫折する。ミルトレッドから解放されたフィリップは伯父の遺産を相続し、医師の資格を取り、患者として看たアセルニーの娘サリーと結婚して平凡な人生を送る決心をする。

(13)月と6ペンス(モーム)-ゴーギャンの生涯にヒントを得て芸術に取りつかれた男の姿を描くモームの代表作

・株式仲買人のストリックランドは17年間連れ添った妻と二人の子供を捨ててパリに家出した。驚いたことに彼は絵を描きたいがために家を飛び出したのだった。5年後、オランダ人の画家ストルーヴは、熱病で苦しむストリックランドを親切心から自宅に引き取り看護する。ストリックランドは友人に恩義を感じることなく、ストルーヴの妻のブランシュを寝取り、彼女を自殺に追い込んでしまう。ストルーヴは妻の死に絶望して、オランダの故郷に帰る。その後、ストリックランドはタヒチに渡り、原住民の女アタと暮らしながら、創作に没頭する。ストリックランドは癩病と闘いながら完成させた壁画に自ら火を放ち、壮絶な死を遂げる。

(14)チャタレイ夫人の恋人(ロレンス)ー人間性の回復を大胆な表現で描くロレンスの代表作

・クリフォード准男爵は1ケ月の新婚生活を送った後、戦地で重傷を負い、下半身不随となって帰還した。23才になる妻のニコイは献身的にクリフォードに尽くしていたが、時々虚しさを感じていた。2月のある朝、クリフォードはニコイに新しい森番のメラーズを紹介した。彼は軍人上がりで、妻が他の男と駆け落ちしたため、俗世との係わりを絶ち、一人で森に暮らすことを望んでいた。ある晩、コニイが森へ出かけると、メラーズがキジのひなを籠に入れていた。彼女はそのひなを受け取り、手のひらで生命の震えを感じて思わず泣き出してしまう。ニコイは小屋に招かれ、メラーズを受け入れながら喜びを感じる。やがて、二人の関係は深まり、コニイはメラーズの子供を宿したことをクリフォードに告げ、離婚を願い入れるが受け入れられず、彼のもとを去る。メラーズは戻ってきた妻との決別を決意し、いなかの農場で働き始める。

(15)レベッカ(デュ・モーリア)-ヒチコックの映画でも知られるロマンス・ミステリー小説の古典的名作

・マンダレイの館主マキシム・デ・ウインターと身分不相応の結婚をした私は、海で事故死した前妻のレベッカの影に怯えて日々暮らしていた。レベッカは美しく、才智にあふれ、誰からも敬愛され、屋敷には彼女の習慣と伝統が根強く残っていた。仮装舞踏会の翌朝、埋葬されたはずのレベッカの死体が、海から引き上げられたヨットの中から発見される。その夜、マキシムは私にレベッカを殺害したことを告白する。船底に穴が開けられていたことから、警察や世間の疑いの目がマキシムに向けられるが、事件は意外な方向に展開する。彼女の日記から事件の当日、レベッカがロンドンの医師に面会し、ガンの告知を受けていたことが明らかになり、当局は自殺と判定する。

(16)長距離ランナーの孤独(アラン・シリトー)ーマラソンの秘訣は決して急がず、急いでいることを相手に気どられないことだ

・感化院に送られた17才の少年スミスは、体格を見込まれて長距離クロスカントリーの選手にさせられた。彼にとっては朝5時に起きて凍り付いた野原を走ることは苦でなく、競技会でカップを獲ることはどうでもよいことだった。スミスは走りながら、このエセックスの感化院に入れられた時のことを思い出した。死んだ父親の保険金が入り、6週間ほどでその金を浪費した。友人のマイクとパン屋の事務所に忍び込み金庫の金を盗んだ。数日後、刑事が家にやって来て、あれこれ尋問され、雨の降る日、樋の中に隠した金が流れ出して、捕まってしまったのだった。競技会の日、スミスは優勝を目前にしながら走るのをやめて負ける。だが彼は院長とのレースには敗れたが、自分のレースには勝った。レース後の重労働で肋膜を患い、出所後軍役を免れ、大仕事で金をもうけて、この手記を書いたのだった。


2.アメリカ

(1)緋文字(ホーソン)-移民後間もないボストンの街を舞台に姦通をテーマとした古典的小説

・一人の女がボストンの処刑台でさらしものにされた。その女ヘスタ・プリンの胸には、姦通を意味する「A」の緋文字が縫い付けられていた。彼女は、若い牧師ディムズデールの呼びかけに対しても、娘のパールの父親の名を明かさなかった。群衆の中にいた医者のロジャー・チワリングスはヘスタに会い、自分が遅れてアメリカに来た彼女の夫であることを秘密にさせる。ヘスタは郊外の藁葺き小屋で針仕事をしてパールと暮らす。ディムズデールは厳しい修行を重ねて健康を損ね、健康の相談役となったチワリングスと共同生活をする。チワリングスはディムズデールを診察し、彼の胸にも緋文字が書かれているのを目撃する。7年後、刑を終えたヘスタはディムズデールにチワリングスが夫であることを明らかにした。彼女は罪の意識に駆られたディムズデールを救うためにチワリングスに全てを告白し許しを請うが、復讐の鬼と化したディムズデールはこれを拒み、大陸への逃亡も阻止する。ディムズデールは新知事就任の祝い日、説教をした後、処刑台にヘスタ親子と上がり罪を告白し、胸を開いて緋文字を大衆の前にさらして息を引き取る。

(2)白鯨(メルビル)-鯨もの尽くし+海洋小説の2部構成からなる冒険小説

・イシュメルは、旅館で知り合った蛮人クィークェグと意気投合して捕鯨船ピークォド号に乗り込んだ。船長のエイハブはかつてモービーディックと呼ばれる巨大な鯨と戦い、片足を喰いちぎられ、復讐に燃えていた。彼は乗組員を甲板に集めて、白鯨を仕止めることが航海の目的であることを告げ、興奮した乗組員たちを引き込んで行く。クィークェグは熱病に冒され、棺を作ったとたん回復する。ピークォド号は、ある日白鯨に挑んで破れ、見失った艇を探しているレイチェル号に出会う。エイハブは艇の捜索への協力を断わり、船を進めた。そしてついに白鯨が現われ、3日間の死闘がくり広げられ、ピークォド号は沈む。エイハブが放った銛は、彼を巻き込んで白鯨に突き刺さり、白鯨の起こした大きな渦巻に艇は巻き込まれる。イシュメルだけが棺につかまって生き残り、レイチェル号に救助される。

(3)最後の一葉(O.ヘンリー)-登場人物の対比と意外な結末を持つ短編小説の最高傑作

・ニューヨークのグリニッジビレッジの芸術家たちの住む三階建のアトリエで、スウとジョンジーは共同生活をしていた。ジョンジーは肺炎で床に臥し、病状はすぐれず、窓の外に見える壁のツタの葉が全て落ちる時、自分の命も尽きると思っていた。その晩スウは階下に住むベアマン老人にその話を聞かせ、彼をモデルにして絵を描いた。翌朝、スウとジョンシーが窓の外を見ると、風雨が一晩中吹き続いたにもかかわらず、最後の一葉が枝に残っていた。それはベアマンが雨の中、壁に描いたものだった。ジョンジーは奇跡的に回復するが、ベアマンは2日後に肺炎で息を引き取る。

(4)グレートギャツビー(フィッツジェラルド)-恋のために悲劇的な最期を遂げるギャツビーの生涯

・大学を卒業して証券会社に勤めるニックは、ウェストエッグに家を借りて住んでいた。近くにはギャツビーの豪邸があり、入り江の向こうには親戚のディジーが、夫のトム・ブキャナンと暮らしていた。ギャツビ-は軍隊にいた頃ディジーと知り合い恋仲にあったが、ギャツビーが大戦でヨーロッパへ出征している間に、ディジーは富豪のトムと結婚してしまったのだった。ニックの取り計らいで再会したギャツビーはディジーとよりを戻すが、ニューヨークへ遊びに行った帰り道、ディジーの運転したギャツビ-の車がトムの愛人のマートルをはねてしまう。罪をかぶったギャツビーはマートルの夫にプールで撃たれて死ぬ。彼の葬式の日、トムとディジーは旅行に出かけ、ギャツビーの父親だけが葬式に出席していた。

(5)エミリーにバラを(フォクナー)-古き良き時代の南部の栄光を描くフォクナーの短編の代表作

・町の厄介者のミス・エミリーが死んだとき、人々は長い間閉ざされていた彼女の時代遅れの屋敷を見ようと葬式に参列した。エミリーは40年程前に名士だった父親を亡くし、当時の市長サートス大佐から免税の権利を与えられて以来、かたくなに納税を拒んでいた。彼女の父親の死から2年後、町にホーマー・バロンという男が、北部から舗装工事の監督にやってきた。いつしか2人は恋仲になったが、町の薬局で毒薬(ひ素)を買う彼女の姿に、町の人はホーマーにふられたエミリーが自殺するのではと噂していた。工事が終わってホーマーの姿が見えなくなった。そのころ、彼女の家から異臭騒ぎがあり、町の人が真夜中に庭に石灰を撒くとその臭いはおさまった。彼女の埋葬が済むと、屋敷の階上にある長い間、閉ざされていた部屋が開けられた。寝台の上には朽ち果てた男が横たわり、枕元のくぼみにはエミリーの灰色の髪が残されていた。

(6)大地(パールバック)ー土地のために生きた王一族の三代にわたる物語

・王龍(ワンロン)は貧しい農民であったが、阿蘭(アーラン)を妻にめとり、2人で土の家に住みながら土地を耕し、ついに地主の黄家の広大な土地を手に入れる。王龍の死後、土地は3人の息子(王大、王二、王虎)に分けられ、手放されて行く。家を出て軍閥の将軍となった王虎(ワンフー)は、民衆を解放させる革命運動に加わり捕まった彼の息子の淵をアメリカへ逃亡させる。農業を学び6年後に帰国した淵は、義理の母が養女にした医学生の美齢に引かれる。王家の土地は革命軍の手に渡り、年老いた王虎が土の家に立て込って息を引き取るところに、淵と美齢は駆けつけた。外に出た2人は新しい未来の始まりを予感していた。

(7)神の小さな土地(コールドウェル)-プア・ホワイト層の人々の間で繰り広げられるユーモラスなドラマを描く(復刻版)

・ジョージア州の田舎町に住むタイタイ老人は、自分の15エイカーの不毛な農地に金鉱があると信じて、15年間息子のバックとショーと穴を掘り続けていた。信心深いタイタイは、1エイカーの土地を神に捧げる土地として、出来高の一部を教会に納めていたが、金鉱がそこにあると思い、次々にその土地を掘り起こしては移動していた。彼らに見切りを付けて町で暮らす長男のジム、紡績工場に勤めている娘婿のウィルは、いずれもバックの嫁で見事な肉体を持つ美人のグリゼルダを奪おうとしていた。ウィルはグリゼルダを手に入れた翌日、ストライキで1年半封鎖されていた工場を再開しようと企てて、警備員に撃ち殺される。バックはグリゼルダを連れ去ろうと家にやって来たジムを撃って姿を消す。

(8)風と共に去りぬ(ミッチェル)-南北戦争前後のアメリカ南部を舞台に広げられる壮大なロマン小説

・タラ農場の娘スカーレットオハラは気が強く、夢想家のアシュレを慕っていた。園遊会の日、アシュレはメラニと婚約し、スカーレットは醜態をアウトローのレッドバトラーに見られてしまう。南北戦争の嵐が吹き荒れる中、スカーレットはメラニの兄のチャールズ、妹の婚約者のフランクと打算的な結婚をして貪欲に生き抜いて行くが、次第に孤立し、人々から敬遠されるようになる。戦火で燃え上るアトランタをレッドに助けられて脱出したスカーレットは彼と結婚し、荒廃したタラを再建する。しかし娘のボニーの死により、レッドの心は離れ、メラニとも死に別れる。最後に彼女は言う「明日あの人を取り戻す方法を考えよう。明日はまた明日の陽が照るのだ」と。

(9)怒りの葡萄(スタインベック)-旧約聖書の出エジプト記に対比させて30年代のアメリカの状況を描く

・オクラホマ一帯を襲った旱魃と砂嵐により小作人たちは収穫が全く得られず、数十万人もの農民が土地を手放してカリフォルニアへ向かった。刑務所から仮釈放されたトム・ジョドーも、途中出会った説教師のケーシーと、ジョドー一家とともにカリフォルニアを目指した。しかしそこで彼らを待っていたのは、迫害と飢餓であった。キャンプ地でケーシーは保安官と争い逮捕されてしまう。ジョドー一家は難を逃れて移動した先で、ストライキの指導者となったケーシーと再会する。ケーシーは監視人に殴り殺され、反撃したトムはその男を殺してしまい追われる身となる。トムはケーシーの意思を継ぐことを決意して、一族から去って行く。

(10)エデンの東(スタインベック)-旧約聖書のカインとアベルの兄弟殺しをベースに人間の愛を描く大作

・5年間の軍隊生活を終えたアダム・トラスクは、コネチカット州の町に帰り、腹違いの弟チャールズと共同生活をしていた。ある日大怪我をした女キャッシーが玄関に倒れているのを見つける。その後アダムはキャッシーと結婚しチャールズと別れてカリフォルニアのサリーナス渓谷の町に移り住む。キャッシーはそこで双子を生むが、悪の本性を現わして、アダムをピストルで怪我をさせて立ち去る。二人の子供(アロンとキャル)は成長し、兄のアロンは少女アブラとの恋の日々を楽しく過ごすようになるが、一方の弟キャルは孤独であった。キャルは父にも冷たくされ、腹いせに偶然知った母の正体を兄に明かしてしまう。アロンは絶望して入隊し戦地で死に、アダムもそれを聞いて全身不髄になってしまうが、死に際にキャルの罪を許す。

(11)誰が為に鐘は鳴る(ヘミングウェイ)-スペインの内戦下に燃え上がるロバートとマリアの恋

・アメリカ人のスペイン語の大学講師ロバート・ジョーダンは民主主義擁護のため、バルチザンの一員としてスペインの内戦に参加し、拠点にある橋を爆破する任務を受ける。彼は政府軍のゲリラ部隊と合流し、そこで村長であった父と母を反乱軍に殺されて参戦していた美しい娘マリアと出会う。ロバートはマリアを愛するようになり、自分が信じるもののために戦うという闘いの意義を悟るようになる。4日目の朝、爆撃が行われる中、ロバートはマリアたちと橋を爆破するが、退却時に敵の砲弾を受けて落馬して足の骨を折る。動くことができなくなったロバートは、マリアに別れを告げ、一人木陰で銃を構えて迫ってくる敵兵を待つ。

(12)老人と海(ヘミングウェイ)-ロストジェネレーションの旗手ヘミングウェイの代表作

・年老いた漁師のサンチャゴには5才の時から漁を教えていた少年がいたが、今は一人で船を出していた。84日間も1匹も釣れていなかったが、少年は老人の家に食事を運び、アフリカの話を楽しく聞いていた。次の日も老人は1人で海に出て行った。沖合で老人は相当の引きを感じた。それは想像を絶する大きさのカジキマグロであったが、少年の助けなしには引き上げることはできなかった。最後の力を振り絞って銛を放って仕留めるが、大魚から流れた血が鮫を呼び、次々に魚は喰いちぎられ、港に帰ってきた時には大きな骨の残骸しか残っていなかった。ボロボロになってしまった老人の手を見て少年は泣き出してしまうが、老人は居眠りをしてライオンの夢を見続けているのだった。

(13)ティファニーで朝食を(カポーティ)-旅行中と書かれた名刺を持つ奔放な少女ホリーを巡る物語

・ニューヨークのアパートに住む作家の私は、隣人の19才の少女ホリーと知り合いになった。彼女は女優でたくさんの男に取り巻かれて暮らし、刑務所にいる老人サリー・トマトに毎週面会して、彼の天気予報を弁護士に伝えて金をもらっていた。ある日アパートにホリーの夫と称す男ゴライトリーが現われ、彼女がテキサスの田舎から逃げ出してきたことを私に話す。ホリーはゴライトリーを見送り、ブラジルの外交官ホセに熱を上げた。しかしホリーが刑務所の老人の連絡係の容疑で逮捕されると、ホセは妻子がいることを伝えて立ち去る。保釈中のホリーはブラジルからアフリカへと旅を続け、私は街の中でホリーが飼っていた猫を保護して、彼女の安住を願う。

(14)ロリータ(ナボコフ)ー「ロリータ・コンプレックス」という心理学用語を生んだ衝撃的な作品

・ハンバートはフランスで過ごした少年時代に、アナベルという美少女に恋をして、引き裂かれた経験を持つ。以来彼は早熟な少女(ニンファット)しか興味が持てなくなってしまう。戦後渡米した彼はニューイングランドで未亡人のシャーロット・ヘイズの家に下宿する。ハンバードはシャーロットの十二歳の娘ロリータと結ばれたいがために、未亡人の求婚を受け入れる。シャーロットはハンバードの日記に書かれた事実を知った直後に交通事故で死に、ハンバードはロリータと車に乗って逃避行を続ける。やがてロリータは失踪し、3年後にハンバードに近況を伝えてくる。ハンバードはロリータを付け回す男クレアの存在を知り、嫉妬してクレアを殺害する。逮捕されたハンバードは手記を残して獄中で心臓発作で死ぬ。

(15)ライ麦畑でつかまえて(サリンジャー)-50年代の若者に支持された1人称の独白調で語られる現代小説の傑作

・ペンシー高校を退学になったホールディング・コールフィールドは、歴史のスペンサー先生に挨拶をして、寮友ストラドレーターとけんかして夜中に列車でニューヨークに帰ってくる。彼には全てのものがインチキに思えた。一晩、街をさまよった挙句、かつて世話になったアントリーニ先生の家を訪問してから自分の家に帰り、妹のフィービーに会う。「何になりたいの」という妹の質問に対して、「自分はライ麦畑で遊ぶ子供たちが崖から落ちないように見張る役をしたい」と答える。ホールディングは旅に出るつもりでいたが、妹に説得され、結局体調を崩して家にとどまることになる。

(16)走れウサギ(アップダイク)-ウサギと呼ばれる青年ハリー・ア-ムストロングの混乱した逃避行記

・かつてバスケットのエースだったハリーは、アル中で身重の妻ジャニスに愛想尽きて衝動的に家出する。当てもなく南に車を走らせ、バスケットのコーチだったトセロに会いに行く。翌日、2人は街の女と食事をして、ハリーはそのうちの1人ルースと夜を過ごし、一緒に暮らし始める。ハリーは献身的な神父エクレスに説得されて、ジャニスの出産の知らせを聞いて家に帰る。ジャニスはハリーと喧嘩をして、酒に酔って精神錯乱に陥り、生まれたばかりの娘を浴槽で殺してしまう。葬式に出席したハリーに人々は非難な目を向け、彼はその場を逃げ出す。ハリーはルースにも見捨てられて、再び走り出す。

(17)緑色の裸婦(アーウィン・ショー)-1枚の絵のために3度も国を追放される画家の運命を描く短編小説の傑作

・モスクワに住む画家セルゲイ・バラノフは、ソヴィエトの教育界の一線で働くアンナ・クロスキーと結婚した後、アトリエに一人立て籠り1枚の絵を完成させた。それは重苦しい緑色で描かれた裸婦の絵であり、セルゲイの個展に来た批評家のスウァルニアンはその絵を絶賛した。しかし、スヴァルニアンの好評は当局により書き直され、セルゲイは人々から猛烈な批判を受けてドイツに逃げ出す。彼は再び緑色の裸婦を描くが、公開前にその絵をゲシュタポに没収されアメリカへ渡る。セルゲイはまた同じ絵を描き、美術展で賞賛を受けるが、国会議員の1人が彼の絵を共産主義者の駄作と批判したためアメリカを追われるようになる。セルゲイは、彼の後を追ってきたスヴァルニアンに「今度はコスタリカに亡命する」と告げるのだった。

(18)ガープの世界(アービング)-生い立ちから死まで数奇な運命をたどるガープの物語

・看護婦のジェニーが負傷した兵士から種を受けて生まれた子供T.S.ガープ。女手1つで育てられ、母とともに作家を志す。やがてジェニーの書いた本はベストセラーになり、彼女は女性運動のカリスマ的存在になる。一方のガープも作家として成功し、幼ななじみで大学講師のヘレンと結婚し、子供たちとともに幸せに過ごすが、母の暗殺、妻の浮気が原因で起った事故により一転する。ガープは女性運動(エレンジェームス党)を批判し、母校のレスリング部でコーチをしている時に党員に銃で撃たれて死ぬ。その後、彼の小説ペンショングリッパーはベストセラーになる。

(19)ブライト・ライツ、ビッグ・シティ(マキナニー)-80年代のサリンジャーと呼ばれたマキナニーのデビュー作

・ニューヨークで雑誌の編集をしている君は、妻のアマンダに去られて以来、仕事も身に入らず、コカインやディスコで時間をつぶして、空虚な日々を送っていた。君はカンザス・シティのバーでアマンダと知り合い、その後2人でニューヨークに移り住んだ。アマンダはモデルとして働き始め、君と結婚した。ところが、パリに仕事で出かけた彼女は君のもとに帰らなかった。君はいい加減な記事を書き、責任をとって会社をやめ、ファッションショーに紛れ込み、アマンダを見つけて叫んで会場を追い出される。ある晩、君は友人に呼ばれてバーに行き、新しい恋人に付き添われたアマンダに会い「調子はいかが」と言われ、冷淡にあしらわれる。翌朝、君は街を歩きまわり、新たな人生の始まりを心に誓う。

(20)スカーレット(A.リュプリー)-ミッチェルの子孫が公募した風と共に去りぬの続編

・スカーレットは乳母のマミーの死後、レットを追ってチャールストンへ行く。レットだけではなく、レットの母親、妹や町の人からも嫌われたスカーレットは、父方の親類を訪ねて、いとこで神父のコラム・オハラに誘われアイルランドへ行く。そこで、スカーレットはレットの子供キャットを生み、タラを再現したバリハラの町を築くが、コラムが集めた町の人がみんな反英組織フェニアン団員であることを知り愕然とする。そしてついにイギリスの軍隊の手がバリハラに伸び、コラムは銃弾に倒れる。スカーレットとキャットは焼けたバリハラをレットに助けられて脱出する。

(21)スタン・バイ・ミー(スティーブン・キング)-「恐怖の四季」四部作の秋編のミステリー小説

・ゴーディは少年時代に仲間のクリス、テディ、バーンと、町はずれの森まで1晩かけて鉄道にはねられて死んだ少年の死体を探しに出かけた時のことを思い出した。当時少年たちにはそれぞれ大人たちとの心の隔たりがあり、エースを中心とした不良グループと対立していた。いくつもの困難を切り抜けて死体を発見し、町に帰ってきた時には少年たちはすっかり変わっていた。その後、バーンは火事で、テディは交通事故でそれぞれ死に、クリスは学生時代にレストランで喧嘩を止めようとしてナイフで刺されて死んだ。ゴーディは作家として成功し、町に帰省した折りに変貌したエースの姿を見かけた。キャスル川は昔と変わらず穏やかに流れていた。

(22)大聖堂(レイモンド・カーヴァー)-村上春樹の名訳で知られる80年代アメリカ文学を代表する短編小説作家の代表作

・私の妻は10年前シアトルで盲人のために代読する仕事をしていた。仕事の最後の日、その盲人(ロバート)は彼女の顔をさわらせてくれるよう頼み、彼女はその時の感触を詩に描いた。まもなく、彼女は士官候補生と結婚したが、その盲人とはテープに暮らし振りを吹き込んで連絡を取り合っていた。その後、彼女は基地間を渡り歩く暮らしに疲れて、自殺を試みるが失敗し、離婚後まもなく私と結婚した。ある日、私たちのもとにロバートが訪ねて来た。彼と妙な雰囲気で食事をとり、妻が引き下がると私はロバートにテレビに映し出された大聖堂を描いて説明した。彼に言われたように目を閉じて紙の上を手で追った。それは全く初めて味わう感触だった。

(23)カラー・パープル(アリス・ウォーカ)ー貧しい黒人の女性セリーが神に当てた手紙

・14才の娘セリーは、義理の父の子供を2人生むが、間もなく子供たちは里子に出され、母親が亡くなる。セリーは、前妻を殺され、歌手のシャグバネリと関係があり、たくさんの連れ子のいるミスター**(アルバート)のもとに嫁がされる。セリーの妹のネッティは彼に家を追い出され、セリーの子供を育てている宣教師サミュエルらとアフリカに渡る。ミスター**の長男ハーポの妻ソフィアは自尊心が強く、市長夫人に暴力を働き、刑務所暮らしの後、市長宅の家政婦に雇われる。シャグバネリが現われ、ハーポの店で歌うようになり、セリーと彼女は同性愛の関係を持つようになる。ミスター**のトランクからネッティの手紙が見つかり、セリーは自立を決心し、義父から相続した家を改築してズボン屋を始める。改心したアルバートも一緒に仕事をするようになり、アフリカからネッティらが帰国して、涙の再会をする。

(24)マジソン郡の橋(ロバート・ジェームズ・ウォラー)-中年の恋愛をテーマとしたベストセラー純愛小説

・写真家のキンケイドは、ロスマン橋を撮りにマジソン郡の田舎町を訪れた。道を尋ねた農家の主婦のフランチェスカはちょうど夫リチャードと子供たちが牛の品評会に4日間出かけていて、1人で留守番をしていた。フランチェスカは橋を案内した次の日にキンケイドを夕食に招待する。そして2人はお互いの過去を話し、それぞれが自分の求めていた相手であることを悟る。キンケイドとフランチェスカは4日間一緒に過ごしただけで、その後二度と会うことはなかった。フランチェスカの遺言に従い、彼女の灰は子供たちの手によってマジソン郡の橋の上からまかれる。

(25)ムーンパレス(ポール・オースター)-NY三部作で知られる現代アメリカ文学の旗手が放つ青春小説

・学生のMSフォッグは、ただ一人の血縁のビクター叔父を失い、人生を放棄して生活難に陥る。公園で物乞いをしているところを友人ジンマーと恋人キティに救われる。その後フォッグは職を見つけて更正する。それは盲目のエフィング老人に本を読んで聞かせる仕事だった。彼は死ぬ間際に自分の過去を語り、一人の息子がいることを伝える。フォッグは、エフィングの遺産をその男バーバーに渡すために会うが、偶然彼が自分の行方不明の父であることを知り愕然とする。フォッグはキティと別れ、バーバーは旅先で死ぬ。フォッグはこの世の果てまで歩き続け、月を見て新たな人生の始まりを誓う。


3.ドイツ

(1)若きウェルテルの悩み(ゲーテ)ー自らの恋愛体験を書簡形式で作品化した恋愛小説の古典的名作

・ウェルテルは過去の苦痛を断ち切ろうと訪れたある町で、舞踏会に行く馬車に同乗した美しい少女ロッテと知り合う。彼女は法官の娘で8人の妹弟たちの母親の代わりをし、前途有望な青年アルベルトと婚約していた。その日以来彼はロッテに恋焦がれ、彼女に近づき子供たちと一緒に過ごす。ウェルテルは旅行から帰ってきたアルベルトに自分にない落ち着きと理性を見い出す。秋になりウェルテルは彼らのもとを去り、公使館の仕事に就くが、人間関係に疲れて辞職する。夏に再び彼はロッテのいる町を訪れ、彼女と再会するが、望みのない恋に次第に自分を追い詰めて行く。冬のある晩、アルベルトの外出中にウェルテルはロッテを訪ね、オシアンの詩を朗読し感動したロッテを抱擁する。翌日の真夜中、ウェルテルは旅行の護身用にアルベルトから借りたピストルで自殺する。

(2)黄金の壺(ホフマン)-アンゼルムスとゼルペンティーナの幻想的な恋の世界を描く狂気の作家ホフマンの代表作

・貧しい大学生のアンゼルムスは、ある日草むらの中から3匹の蛇が呼ぶ声を聞いた。その日以来彼は蛇の幻覚を見るようになった。アンゼルムスは教頭と書記役から文書管理役リントホルストのもとで文書を書き写す仕事を紹介された。そこで彼はリントホルストが火の精ザラマンダーで三人の娘を蛇に変えられていていること、末娘のゼルペンティーナと結婚すれば黄金の壷の魔力で理想郷で暮らせることを知らされる。アンゼルムスは魔女に妨害され、ガラスの瓶に閉じ込められる。火の精との戦いに魔女は破れ、瓶から脱出したアンゼルムスは詩人としてゼルペンティーナと理想郷で幸福に暮らす。

(3)みずうみ(シュトルム)-トーマス・マンの「トニオ・クレーゲル」の原形にもなった詩情あふれる恋愛小説

・年老いたラインハルトは幼い頃いっしょに過ごしたエリザーベトのことを想うと胸が熱くなった。ラインハルトは高校に通うため町を離れ、帰省してエリザーベトに再会した。美しい少女に成長した彼女の態度には、どこかよそよそしいところがあった。2年後研究に没頭していたラインハルトは、エリザーベトが友人のエーリッヒと結婚したことを知る。数年後ラインハルトはイムメン湖のほとりに住むエーリッヒの邸を訪問し、物静かな夫人に変わってしまったエリザーベトに会う。夕べの席で彼は自分の気持ちを詩に託して伝える。翌日湖畔を散歩した二人は、彼らの青春が青い山の向こうに行ってしまったことを感じた。明け方、ラインハルトはエリザーベトに二度と彼女の前に現われないことを告げ、邸を去って行く。

(4)車輪の下(ヘルマン・ヘッセ)-学校や社会に押し潰されて行く少年ハンスの青春を描くヘッセの自伝的小説

・シュワルツワルトの町に生まれたハンス・ギーベンラートは、周囲の人から期待され、州の試験のための猛勉強に駆られていた。試験を無事パスしたハンスはマウルブロンの神学校に入学し、模範的な学生として勉学に励むが、詩心を持ち反抗的な学生ヘルマン・ハイルナーと親しくなり、次第に教師や仲間たちは彼から離れて行った。学校を脱走したヘルマンは放校処分になり、ハンスは精神的に衰弱して故郷に帰る。ハンスはリンゴの絞り場で知り合った少女エンマとの束の間の恋に踊らされ、友人のアウグストの勤める機械工場で工員として働く。ある日、アウグストに誘われて遠足に出かけたハンスは酒を飲みすぎ、家に帰ることを考えて落ち込み、一人で村を出る。翌日ハンスは川にはまり、溺死しているのを発見される。

(5)変身(カフカ)-虫に変身した孤独な男の姿を描く現代実存主義文学の先駆的作品

・外交販売員のグレゴール・ザムザはある朝、自分が寝床で巨大な一匹の毒虫に変身していることに気付いた。遅刻を咎めに訪れた支配人に会いにグレゴールはドアを開けて出て行くが、その姿に驚いて支配人は退散し、母親は腰を抜かし、父親は怒って彼をステッキで部屋に押し戻した。その日以来、彼の部屋には妹が食事を運びに来るだけになった。部屋から這い出したグレゴールは、父親が投げつけた林檎で背中を負傷して衰弱する。そしてある日、妹の弾くバイオリンの音に誘われて下宿人の夕食の席に現われたグレゴールに対して、家族は業を煮やした。おとなしく部屋に帰ったグレゴールはそのまま息を引き取る。彼の死を確めた親子3人はそろって休暇を取り、郊外へ散歩に出かけて引っ越しの相談を始めるのだった。

(6)ベニスに死す(トーマス・マン)-孤独な芸術家の死を黄昏て行くベニスの町を舞台に描く

・初老の作家のアッシェンバッハは著作活動が生き詰まり、5月のある日、思い立ったように旅行に出た。行き着いたベニスのホテルで、ポルトガル人の宿泊客の中にいた美少年タドゥツィオに魅せられる。ベニスの異様な臭気にアッシェンバッハは嫌気がさし、ドイツに戻る決心をするが、カバンが誤った地に発送されたため、戻るまでベニスに足止めされる。彼はベニスの警察が町中を消毒をしていることを気にかけ、真相を突き止めようと滞在を延ばす。アッシェンバッハはタドゥツィオの姿を追うようになり、二人の間にプラトニックな関係が生まれる。やがて、ベニスに疫病が流行していることが発覚し、ほとんどの旅行者が立ち去って行く。アッシェンバッハは一人椅子に腰掛けて、海岸で遊ぶタドゥツィオを見つめながら死ぬ。

(7)魔の山(トーマス・マン)-青年ハンス・カストルプが魔の山で過ごした7年間を描くドイツ教養小説

・エンジニアのハンス・カストルプは、故郷のハンブルグからスイスのダヴォスにある高地療養所(サナトリウム)に、3週間の予定で、いとこのヨーアヒムを見舞いに来た。そこは様々な国から来た人たちが入院していて、下界から全くかけ離れた別世界であった。ハンスはイタリア人の人文主義者セテムブリーニ、ロシア人のショーシャ婦人らと知り合う。2週間後のある日、ハンスは風邪の診断を受け、自分の肺がカタルに冒されていることを知らされ、滞在を延ばすことを決める。ハンスが想いを寄せていたショーシャ婦人は帰国し、ラテン語学者で急進的な思想を持ったナフタが現われ、冬が来る前に回復の兆しが見えないヨーアヒムは軍隊に戻って行った。ハンスは冬のある日スキーで雪山を下り、吹雪に巻き込まれ遭難しそうになる。病状の悪化したヨーアヒムが戻ってくるが治療の甲斐もなく息を引き取る。ショーシャ婦人は、コーヒー王のペーペルコルンを伴って舞い戻って来るが、熱病を苦に彼が自殺したのを機に療養所を去って行く。ナフタとセテムブリーニの議論は加熱し、二人は決闘し、ナフタは弾を自分の頭に撃ち込んで絶命する。やがて第一次大 戦が起こり、ハンスは山を降りて入隊する。戦場には「菩提樹」を口ずさみながら、銃火の中を前進するハンスの姿があった。

(8)西部戦線異状なし(レマルク)-志願兵ボイメルの手記の形で戦場の惨状を描く反戦小説

・第一次大戦が激しさを増す中、パウル・ボイメルは愛国心を高まらせて、級友たちと志願して兵隊になった。しかし戦場で彼らが見たものは、余りにも心に描いていたものとはかけ離れていた。砲弾が飛び交い、毒ガスがまかれ、病気が蔓延する中、戦友たちは次々に倒れていった。同じクラスにいた7人で最後に残ったボイメルもついに戦死する。彼が死んだ日、司令部は「西部戦線異状なし。報告すべき件なし」と伝えていただけだった。

(9)黒羊(ハインリッヒ・ベル)-戦中派作家ベルのユーモアにあふれた短編小説の代表作

・私の叔父さんは一族の黒羊(変わり者)だった。オットー叔父さんはやさしく博学な人だったが、親類に会うと最後には借金をしていた。叔父さんは宝くじを当てて、大金を受け取った直後にトラックに引かれて死んだ。借金の記録と遺書が見つかり、私が相続人に指定されていた。私はそのお金を使い尽くすと、家具工場で事務の仕事に就いた。そんなある日、自分が買った宝くじが当たり、私は大金を手に入れ、仕事をやめた。私は今は見つけていないが、一族に黒羊が現われたら、その子に財産を贈るように遺書を書くことに決めた。

(10)モモ(ミヒャエル・エンデ)-ネバーエンディングストーリーの原作者が時間に追われる現代人を風刺した児童小説

・街はずれのコロシアムに住む不思議な少女モモ。彼女の所に行くとみんな正直な自分に戻ることができた。ところが灰色の服を着た時間どろぼうが街の人から時間を奪い貯蓄銀行に入れたため、だれもが時間に追われて、あくせく働くように変貌してしまう。モモは時間の国の支配者マイスタホラの使いのカメとともに、時間どろぼうの後をつけて、貯蓄銀行に忍び込み、時間を取り返すことに成功する。そして人々にまたゆっくりとした時間が戻ってくる。


4.フランス

(1)クレーブの奥方(ラファイエット夫人)-17世紀の宮廷人の生活と恋愛を描くフランス心理小説の先駆的作品

・アンリ二世の時代、淑徳な母親に育てられたシャルトル嬢は16才で宮廷に出て、その美貌により人々の注目を浴び、クレーブ侯と愛情のない結婚をして、クレーブ夫人となる。彼女は宮廷の舞踏会で、美貌の青年貴族ヌムール侯に出会う。二人は互いに激しい恋心を抱くようになるが、クレーブ夫人は心を打ち明けた母親から貞節を説かれ、クロミエに引き籠って自制する。彼女はパリへ戻るように勧める夫に、恋の苦悩を告白する。この会話を立ち聞きしたヌムール侯は、喜びのあまり友人にその一部始終を語り、やがて噂が宮中を巡り、クレーブ夫妻の耳に届く。ある日ヌムール侯がクロミエの邸に忍び込んだことを聞いたクレーブ公は妻の不貞に絶望し、夫人の潔白の主張も空しく、病に臥して亡くなる。数ケ月後、夫人はクレーブ公に愛を告白し、公と結婚しないことを告げて修道院に入る。

(2)マノン・レスコー(プレヴォー)-女に裏切られながらも恋のために自らを犠牲にする男を描く自伝的恋愛小説

・17才の名家の青年デグリューはアミアンの町で、尼になるために馬車に乗せられた美しい少女マノン・レスコーに魅せられ、彼女をさらってパリに逃亡する。デグリューはマノンと暮らすようになるが、留守の間に彼女が男と通じていたことを知り、家に戻る。聖職への道を決めたデグリューのもとに、マノンが現われ許しを請う。デグリューは再びマノンと駆け落ちするが、マノンは田舎町に退屈し、マノンの兄の指示で二人は金持ちの男から金を奪いパリに戻る。逮捕された二人は逃亡し、再び詐欺を働き逮捕される。デグリューの父は息子だけを釈放させ、マノンはアメリカに流される。デグリューは彼女を追い、ニューオリンズで知事の息子と決闘する。相手を殺害したと勘違いしたデグリューは、マノンを連れて逃亡するが、衰弱したマノンは息を引き取り、一人デグリューはフランスへ帰国する。

(3)危険な関係(ラクロ)-18世紀のフランス上流社交界を舞台に繰り広げられる恋愛を描く書簡文学の古典的名作

・ヴァルモン子爵とメルトゥイユ公爵夫人は、かつてジェルクレール伯爵の裏切りに会い、復讐の機会をうかがっていた。やがてジェルクレールは6万フランの年金付きの「15才のバラの蕾」セシールと結婚することになる。公爵夫人はヴァルモンにセシールを誘惑するようにそそのかす。一方、単調な恋愛に飽きていたヴァルモンは、美しく貞淑なトゥールヴェル法院夫人を苦悩させて享楽に浸る。ヴァルモンの誘惑に落ちたセシールは修道院に行き、法院夫人は気が狂い死ぬ。しかしヴァルモンも、セシールの恋人のダンスニー騎士との決闘に破れ、公爵夫人も天然痘にかかり二度と見れない顔になり、オランダへ逃れる。

(4)赤と黒(スタンダール)ージュリヤンの野心を通じて、社会の支配者たちに対する批判的に描く19世紀フランスの代表作

・ヴェリエールの町で製材商の家に生まれたジュリヤン・ソレルは、美貌と脅威的な記憶力を持ち、上流社会に対して憎悪を抱きながらも、激しい出世欲に駆られていた。彼は町長のレナール家で家庭教師をしていたが、いつしか夫人に恋心を抱くようになり、お互いに愛し合うようになる。やがて、二人の関係は暴露され、ジュリヤンは町を追われてブザンソンの神学校へ行く。その後ジュリヤンはピラール神父の紹介によりラ・モール公爵の秘書になるが、パリに行く途中、ヴェリエールに立ち寄り、レナール夫人に会いに行く。二人は密会の場面をレナール氏に見つかってしまい、ジュリヤンは命からがら脱出する。彼は公爵の令嬢マチルドの愛を得て結婚し、財産を手に入れるが、レナール夫人から中傷の手紙により夢を砕かれる。激怒したジュリヤンはヴェリエールに行き、レナール夫人をピストルで撃ち、裁判で自ら罪を認め、公然と陪審員を批判して死刑にされる。マチルドが営んだ盛大な葬式の3日後、レナール夫人は病気で死ぬ。

(5)パルムの僧院(スタンダール)-ファブリスを通じて幸福を追い求める人間の行き着く先を描くスタンダール晩年の代表作

・ミラノの大貴族のデル・ドンコ公爵の次男ファブリスは、ナポレオンを崇拝する美少年だった。16才の時、ワーテルローの会戦に参加するが、スパイの容疑をかけられ、戦場を右往左往して、ただ戦争に幻滅するだけだった。叔母のサンセヴェリーナ夫人の計らいでファブリスは僧門に入るが、恋心を抱いた旅芸人のマリエッタをめぐって男を殺し、ファルネーゼ塔に幽閉される。獄中でファブリスは、牢獄の長官の娘クレリアと激しい恋に落ちる。ファブリスは、サンセヴェリーナ公爵夫人やクレリアの助けで脱獄に成功するが、クレリアへの想いに駆られて自ら牢獄に戻る。政変が起こり新大公のもとで放免されたファブリスは、大司教補佐となり、公爵夫人となったクレリアと通じるが、二人の間に生まれた子供の死を、クレリアは神の罰と信じて苦悩して死ぬ。絶望したファブリスは僧院に隠棲して世を去る。

(6)ゴリオ爺さん(バルザック)-人物再登場法を案出し、19世紀のフランス社会を描く小説集「人間喜劇」の起点的作品

・パリの下宿ヴォーケー館にゴリオ爺さんと呼ばれる男が住んでいた。彼はかつて製粉業者を営み、巨額の富を貴族に嫁がせた二人の娘(アナスタジー、デルフィーヌ)に貢ぎ、貧乏暮らしをしていたのだった。同じ下宿に住む学生ラスチャニックは、学問と社交界で成功する野心を抱いていた。彼は叔母のボーセアン子爵夫人の援助を受けて社交界に入り、アナスタジーに近づくことに成功するが、ゴリオの名を口にしたため彼女の家へ出入りする機会を失ってしまう。ラスチャニックは謎の下宿人ヴォートランに「成功こそ美徳」と諭されて企てに誘われるが、後に彼が脱獄囚であることが判明し官憲に捕えられたため窮地を逃れる。ラスチャニックはデルフィーヌと恋仲になり、アパートを移り住むことになる。引っ越しの朝、金を無心に来た二人の娘が口論するのを見て、ゴリオは卒中で倒れる。彼を看病するのはラスチャニックと医大生のビアンシャンだけで、葬式にも彼の娘たちは現われなかった。ラスチャニックはゴリオの墓の前で涙を流し、パリの街を見つめ、社会への挑戦を決心した。

(7)谷間の百合(バルザック)-少年時代の作者自身をモデルにフェリックスの運命を描くリアリズム小説の傑作

・母親から愛情を受けずに育った純真で孤独な青年フェリックスは、初めて出かけた舞踏会で美しい婦人に魅せられ、すっかり心を奪われてしまう。彼は恋煩いから身体を壊し、療養するためにアンドル川の谷にある美しい町トゥレーヌを訪れる。フェリックスは、彼女がその地に住む亡命貴族のモルソフ伯爵夫人アンリエットであることを知り、彼女の家に通うようになる。彼はアンリエットに献身的な愛を捧げるが受け入れられず、パリに出る。社会的地位を得たフェリックスは、アンリエットへ想いを寄せながらも、欲望に負け社交界で知り合ったダドレー夫人との恋に落ちてしまう。この噂はアンリエットのもとにも届き、彼女と再会したフェリックスは悲嘆に暮れるアンリエットに、わが身の誤りを許すように請う。パリに帰ったフェリックスは、ある日アンリエットが病に臥しているとの知らせを聞き、駆けつける。アンリエットはフェリックスへの想いの深さを綴った手紙を残して亡くなる。

(8)カルメン(メリメ)-1人のジプシーの女に運命を狂わされる男の姿を描き、独自の視点でとらえたジプシー論を語る

・私はアンダルシアを旅行している道中で一人の男と知り合った。彼はドン・ホセというお尋ね者であったが、追手が迫っていること告げて彼を宿から立ち去らせた。コルトバで私はカルメンという美しいジプシーの女に知り合い、占いをしてもらっているところにホセが現われ、私は追い払われた。数ヵ月後、再びコルトバを訪れた私はホセが逮捕されていることを知り、面会した彼から身の上話を聞いた。騎兵だった彼は、ある日セヴィーヤの警備をしている時にカルメンに会い、口にくわえたアカシヤの花を投げつけられた。ホセは喧嘩で相手を傷つけたカルメンを逃がし、一兵卒に格を下げられ、密輸の手伝いをして軍を追われる。ジプシーの仲間に入ったホセは、カルメンの夫のガルシアを殺し、彼の持ちかけたアメリカ行きの提案を断わり、闘牛士のリュカスに熱を上げるカルメンに我慢ができなくなり、彼女を刺し殺し自首したのだった。

(9)椿姫(デュマ・フェス)ーヴェルデイ作曲の歌劇でも知られる美貌の娼婦マリグレットと青年アルマンの悲しい恋物語

・パリの町で生前その美しさで「椿姫」と呼ばれた娼婦マリグレットの家財の競売が開かれ、私は送り主アルマンの署名のあるマノンレスコーの本を買った。数日後、アルマンが買った本を譲り受けたいと私のもとに現われ、自分の身の上話を語った。アルマンは劇場で友人の紹介でマリグレットと知り合い、以来彼女を町で見かけるたびに胸の高まりを覚えるようになった。マリグレットは肺病の療養のためバニェールへ旅に出、その地で知り合った老公爵に囲われて、二年後パリに戻って来た。ある夜会で発作を起こしたマリグレットは献身的に介抱してくれたアルマンに心を打たれ、二人は郊外に家を買い、愛の生活を築くようになった。しかし、二人の関係はアルマンの厳格な父親に知られ、マリグレットは身を引き、アルマンは近東へ旅立って行った。アルマンは旅先でマリグレットの容態の急変を知りパリに戻るが、時すでに遅く彼女は亡くなっていた。そして、手渡された彼女の日記にはアルマンへの一途な愛が死ぬ直前まで書きつづれられていた。

(10)三銃士(デュマ)ーダルタニャンと三銃士の友情と恋と痛快な冒険を描く大デュマの代表作

・17世紀初めのルイ13世の統治下、血気盛んな青年ダルタニャンは一旗揚げようとガスコーニューからパリに乗り込んできた。彼は近衛銃士隊長のトレヴィルの家で3人の銃士ポトス、アラミス、アトスに会い、トレヴィルから銃士になるためには功績を上げなければならないことを聞く。些細なことからこの3人の銃士と決闘することになったダルタニャンは、枢機官リシュリューの護衛士と近衛銃士間の闘争に巻き込まれ、剣客を倒して男を上げる。その後、ダルタニャンは三銃士と友情を深め、アンヌ王妃とイギリスの宰相バッキンガム公を苦境に陥れようとする枢機官の企てを阻む。ダルタニャンは失踪した王妃の付き人ボナショウ夫人を探し、枢機官の手先で謎を秘めた女ミレディーに関わり、命を狙われるようになる。そんな折、フランスとイギリスの間に戦争が起こり、ダルタニャンは武勲を上げて銃士に昇格する。ミレディーはバッキンガム公を暗殺し、ボナショウ夫人を毒殺するが、ダルタニャンたちに追い詰められて処刑される。ダルタニャンは枢機官に副銃士隊長に任命され、三銃士たちは近衛銃士隊を去る。

(11)愛の妖精(ジョルジュ・サンド)-男装の麗人、ショパンやミュッセの愛人としても知られるサンドの田園小説の代表作

・コッス村のバルボー家に双子の男の子が生まれた。二人は片時も離れないほど仲良く育つが、家族が増えたため、バルボーは弟のランドリーをプリシュ村のカイヨーのもとに牛の番に出すことにした。兄のシルヴィネは気弱で、次第に弟に対する嫉妬心が高まり、ある日家出をする。兄を探しに出かけたランドリーは、村はずれに住むファデー婆さんの孫娘で器量の悪いファデットに会い、彼女からシルヴィネの居所を聞き、無事に兄を見つけ出す。1年後ランドリーは夜道で鬼火におびえているところをファデットに助けられ、祭の日にお礼に一緒に踊る。以来二人は恋仲になるが、ファデットは村人の評判が悪く、奉公のために一人村を出て行く。1年後ファデー婆さんが亡くなり、村に帰って来たファデットは評判とは裏腹に気立てがよい娘であることがわかり、バルボーはランドリーとの結婚を許す。ファデットを好きになったシルヴィネは、兵隊になるため一人村を出て行く。

(12)ボヴァリー夫人(フロベール)ー「ボヴァリー夫人は私だ」と発言し、自らの分身として現実に失望した人間像を描く

・田舎医者のシャルル・ボヴァリーと結婚したエンマは、単調な結婚生活と退屈な夫に不満を抱いていた。ある日、舞踏会に招待されたエンマは豪華な世界を目にして、ますます現実に幻滅して行く。シャルルは精神を病んだ妻の身を案じてヨンヴィルに転地すること決める。エンマはそこで公証人の書記レオンに恋をするが結局実らず、レオンは勉学でパリに去ってしまう。残されたエンマは道楽者のロドルフに身を任せてしまい、彼に駆け落ちを迫るが、逆に見捨てられしまう。絶望から立ち直ったエンマはレオンと再会し、二人の恋は燃え上がるが、次第に彼女は浪費に明け暮れるようになり、借金が重み誰からも相手にされなくなる。絶望したエンマは毒を飲んで自殺し、妻の過去を知ったシャルルは呆然自失のまま彼女の遺髪を握りしめて死ぬ。

(13)居酒屋(ゾラ)ー幅広い社会の各階層の人々の姿を描いた作品群「ルーゴン・マッカール叢書」の代表作

・洗濯女のジェルヴェーズは夫のランティエとパリの労働者街に住んでいた。ランティエは女にうつつを抜かして家出をしてしまうが、彼女は仕事に励み、真面目なブリキ職人のクーポーと再婚した。ジェルヴェーズは店を開こうとお金を貯めるが、クーポーが足を滑らせて屋根から落ち、治療代で貯金は消えてしまう。その後、彼女は隣人のグージェから借りた金で店を開き、勤勉な仕事振りが評判をよび店は繁盛するが、事故以来怠け癖がついたクーポーは酒浸りになり、店の稼ぎを酒代につぎ込んでしまう。町に舞い戻ってきた前夫のランティエは、クーポーにうまく取り入って、店に住み着くようになり、ジェルヴェーズと縒りを戻す。男たちの自堕落な暮らしに引き込まれて、ジェルヴェーズも酒に手を出し、次第に借金が増えて客足も遠のき、ついに店はつぶれる。金に困ってジェルヴェーズは街頭に立つようになり、クーポーはアル中で発狂して死亡し、ジェルヴェーズも気がふれ、アパートの一室で死んでいるのを住民に発見される。

(14)女の一生(モーパッサン)-夫と息子に裏切られて悲惨な生涯を送るジャンヌの姿を描く

・5年間の修道院生活を送ってジャンヌは両親の家に戻ってきた。若い子爵ジュリアンを紹介されたジャンヌは、たちまち恋に落ちて、彼を婿に迎え入れる。女中のロザリーが私生児を生み、ジャンヌはジュリアンとロザリーの関係を知り、崖から身を投げるが失敗する。まもなく、ジャンヌは息子のポールを生み、彼に生きがいを見つけようとするが、フールヴィル伯爵夫人と関係を持ったジュリアンが伯爵に殺され、死んだ母の過去の不貞が暴かれ、次々に不幸に見舞われる。その後、過保護に育てられたポールは家を出て、放蕩や投機に明け暮れ、すっかり財産を喰いつぶしてしまう。ジャンヌは、死んだポールの情婦の生んだ子供を引き取り、新たな人生の喜びを見い出して行くのだった。

(15)狭き門(ジット)-ジェロームを愛しながらも狭き門を通じて神への愛に一生を捧げるアリサの生き方を描く

・ジェロームは毎年、叔父に招かれてル・アーブルで過ごしていた。いとこのジュリエットとロベールは遊び友達だったが、姉のアリサは心やさしく、ジェロームはいつしか彼女に恋心を抱くようになった。彼は偶然叔母の浮気現場を目撃してしまい、一人で悲しむアリサを守ることを心に誓う。二人は教会で神父から「狭き門」の説教を聞いた。アリサはジェロームの愛を受け入れず、神の愛に生きることを決め、彼に思いを寄せていた妹のジュリエットのために身を引く。ジェロームは失望してフランスを去る。3年後、ジェロームは再びアリサのもとを訪れて求婚するが、もはや過去のことと断わられる。数ケ月後、ジェロームはジュリエットから、肺を病んだアリサが家出をして亡くなったことを知らされ、彼女の日記を受け取る。そこには彼への想いと狭き門をくぐり神の道を進もうとする心の葛藤が綴られていた。10年後、ジュリエットと再会したジェロームは、アリサのことを忘れられずに、まだ一人でいること語る。

(16)肉体の悪魔(ラディゲ)-20才の短命な作家ラディゲが16才の時に書いた自伝的恋愛小説

・第一次世界大戦が起こる中、マルヌ川のほとりに住む15才の少年フランソワは、ある日父親の知人の娘マルトを紹介される。彼女はフランソワよりも3つ年上で、前線に出ている青年ジャックと婚約していた。いつしかフランソワとマルトの間に恋が芽生える。その後、戦場から一時戻ってきたジャックとマルトは結婚するが、戦場に復帰したジャックをよそに、フランソワとマルトの関係は深まって行く。やがてマルトは懐妊し、その子の父親がジャックなのかフランソワなのか思い悩む。マルトは予定よりも2ケ月早く生まれた子供に恋人の名であるフランソワという名前を付けて、フランソワにその子の父親が彼であること告げる。その後、戦争が集結し、帰郷してきたジャックの前で、マルトは子供の名を呼びながら急死する。

(17)青い麦(コレット)ーブルターニュの海岸を舞台に早熟な少年と少女の恋を描く女流作家コレットの代表作

・16才のフィリップは1つ年下の少女ヴァンカと幼い頃から友達だった。彼らは家族と一緒に今年もバカンスを海岸の別荘で過ごしていた。フィリップはヴァンカと海岸で遊びながら、彼女の成熟した身体を意識し、パリに帰ったら彼女に頻繁に会えなくなるのを寂しく思っていた。ある日、彼は車で海岸に迷い込んだ白い貴婦人マダム・ダルレーに会い、数日後使いの帰り道に彼女と再会した。フィリップは大人の魅力に引かれて彼女の家に通い、恋の手ほどきを受けるが、突然マダム・ダルレーが立ち去ったことを知りショックを受ける。ヴァンカはフィリップの浮気を知り怒って殴りつけるが、結局深く傷ついた彼に身体を与えて慰めてしまう。フィリップは15年間続いた恋が終わらなかったことに安堵する一方、やり場のない空しさを感じるのだった。

(18)テレーズ・デスケイルゥ(モーリヤック)-カトリック作家モーリヤックが無心論者の孤独で空虚な心理を描く

・テレーズは夫のベルナールに多量の毒薬を与えた殺人未遂の罪に問われるが、体面を保つために夫らが工作を行い控訴は棄却される。裁判所から家に帰る途中、彼女は自分の過去を思い返す。資産家の娘に生まれ、隣人のディスケイルゥ家に嫁いだが、無教養な夫との暮らしは虚無だった。夫の妹で親友のアヌは、ジャンという青年に心を奪われ、彼との仲を引き裂かれた。テレーズがマリを出産した数週間後、近くの松林で火事があった。テレーズは、気が動転したベルナールが心臓病の薬を普段の倍飲むのを、故意に見過ごし、苦しむ夫の姿を冷やかに見た。サンクレールの家に戻ってきたテレーズはベルナールに辛辣な言葉を浴びせられ、二人は別居する。その後アヌはジャンと結婚し、テレーズは夫に真意を語り一人立ち去って行く。

(19)恐るべき子供たち(コクトー)-詩人コクトーがラディゲの死後の阿片中毒時代に書いた代表的な小説

・中学校の校庭で行われた雪合戦で、ダルジェロの投げた球を受けて負傷したポールは、友人のジェラールに連れられて自宅に帰る。ポールの家では彼の姉のエリザベートが病気の母親を看病していたが、間もなく母親は病気で亡くなる。ジェラールはエリザベートが好きになり、ポールの家で3人の乱雑、喧嘩、夜更かしに明け暮れた生活が3年続く。モデルの仕事を見つけたエリザベートは仲間のアガートとボーイフレンドのミカエルを家に連れてくる。ミカエルはエリザベートと結婚するが、交通事故で急死する。エリザベートは彼の豪邸に住み、アガートに恋しているポールを裏切って、ジェラールとアガートを結婚させる。ポールは再会したダルジェロからもらった毒を飲んで死に、エリザベートも自ら銃で命を絶ち、狂乱した暮らしが終わる。

(20)夜間飛行(サンテグジュペリ)-飛行家として夜間航空路を開発した経験をもとに郵便飛行事業に生きる人々を描く

・夕暮れの中、ファビアンは郵便飛行機を操縦して、南米のパタゴニアからブエノス・アイレスに向かっていた。見下ろすと地上の灯りが人間の生活を象徴するかのように輝いていた。ブエノス・アイレスでは支配人のリヴィエールが各地から向かって来る3機の飛行機の到着を待っていた。一方、パタゴニア機は暴風雨が近づいていることを地上からの連絡で知る。ファビアンの妻シモーヌは、空港に電話をして、夫の飛行機がまだ到着していないことを知り、心配して空港に行く。ファビアンの機は、嵐の中を通り抜けることができず、無線の交信が跡絶える。パタゴニア機の到着を待たずに、ヨーロッパ機が離陸して行く。

(21)人間の条件(マルロー)-上海クーデターに関わった革命家たちの生き方を多音響的(ポリフォニック)に描く(絶版)

・上海クーデターの前夜、共産党員の陳は政府軍の武器の仲買人を殺して取り引きのための書類を奪った後、仲間の清の父親で精神的に影響を受けたジゾールに心を落ちつかせるために会う。一方、清は仲間のカトフらと銃の運搬船を襲撃して武器を奪う。翌日、彼らは警察所を銃撃して町の要所を掌握するが、その後、蒋介石の率いる国民党が上海に入城し、町はフランス人や中国人の資産家と手を組んだ国民党に支配されるようになる。陳はコミンテルンの反対を押し切って、共産党と決別した蒋介石の暗殺を企てるが、失敗して爆死する。一方の清も逮捕されて拷問を受けるが服毒自殺し、上海クーデターは失敗し、資本主義の勝利に終わる。清の妻で女医のメイは、悲痛な決意を秘めて一人旅だって行く。 

(22)異邦人(カミュ)-常軌を逸した男ムルソーの行動を追い不条理を追及したカミュの代表作

・ムルソーは養老院で死んだ母親の葬式に行くため、マランゴにバスで出かけた。葬式の日、空には太陽の光が満ち、辺りに立ち込めたにおいにムルソーの思考は混乱する。アルジェに戻り、翌日ムルソーは海水浴に行き、友達のマリイに会い、夜を一緒に過ごした。数日後、ムルソーは隣人で女を世話しているレエモンに、1人の女を懲らしめる手伝いを頼まれる。女を殴ったレエモンは、海岸でムルソーたちと遊んでいるところを2人のアラビア人に襲われる。ムルソーはレエモンから借りたピストルでそのうちの1人を撃ち殺す。逮捕されたムルソーは、殺人の動機を太陽のせいだと言い、裁判で母の葬式で涙を流さず、翌日マリイと遊んだことなど異常な行動が次々にあばかれて、処刑の判決を受ける。

(23)悲しみよこんにちわ(サガン)-セシルの青春期特有の倦怠的な恋愛感を描くサガンのデビュー作品

・17才のセシルは、40才で女たらしの父親レエモンと彼の愛人のエルザと夏休みを地中海沿岸の別荘で過ごしていた。そこでセシルは大学生のシリルと知り合う。ある日、死んだ母親の友人のアンヌが、レエモンに呼ばれてやって来た。アンヌは美しく聡明な女性で、彼女の滞在はセシルたちの平穏な休暇を乱す。エルザはレエモンをアンヌに奪われ悲嘆して去る。セシルはレエモンとの結婚を決め、シリルとの恋愛をやめさせようとするアンヌに敵意を感じ、エルザとシリルに恋人を装わせて、レエモンの浮気を誘った。アンヌはレエモンとエルザの関係を知り、取り乱して別荘を立ち去り、自動車事故を起こして死ぬ。パリに帰ったセシルは、夏が近づくとアンヌの記憶が蘇り、悲しみの感情にとらわれるのだった。 

(24)愛人(マルグリット・デュラス)-仏領インドシナを舞台に少女期の恋愛を語る自伝的作品

・私は18才で年老いた。15才の時私はサイゴンの寮からショロンにあるフランス人の高校にバスで通っていた。ある日、メコン河の渡し船の上で、黒いリムジンに乗っていた若い中国人に声をかけられた。彼は百万長者の息子で、その日以来私は彼の車で送り迎えされるようになった。私には学校の教師をしている母親と2人の兄がいたが、彼らとは心の隔たりがあった。やがて、私はその青年に身を任せ、毎日のようにショロンのある部屋で快楽に浸るようになった。しかし、下の兄の死がきっかけで、一家はフランスに戻り、私は中国人と別れた。戦後、何年かたったある日、その中国人から電話があり、「私は死ぬまで貴方のことを愛す」と伝えてきた。


5.ロシア

(1)スペードの女王(プシーキン)-実話をもとに幻想的で怪奇な世界を描く短編小説の傑作

・カード遊びの席でトームスキーは、自分の祖母が若くフランス社交界の華であった頃、オルレアン侯にカードで大負けし、翌日知人のサンジェルマンから秘策を授けられて勝負に挑み、負けを取り返した話をした。それを聞いたゲルマンは、その伯爵夫人から何とかその秘策を聞き出そうと、夫人の養女のリザヴェーダに近づき、舞踏会の晩、夫人の寝室に忍び込んでピストルで脅す。ところが、夫人は驚きのあまり死んでしまう。葬式の晩、ゲルマンの家に夫人の幽霊が現われ、リザヴェーダとの結婚を条件に、「3、7、1」と張るカードの賭け方を教える。モスクワのクラブに現われたゲルマンは、夫人に教わったとおりに、「3、7」とカードを張り大金を手にするが、最後に「1」の代わりに夫人の顔にそっくりなスペードの女王が出て勝負に負ける。ゲルマンは気が狂い「3、7、1、3、7、女王」と叫び続けているのだった。

(2)外套(ゴーゴリ)-ドストエフスキーの初期の作品に影響を与えたゴーゴリの代表作

・九等官のアカーキイ・アカーキエウィッチは誰からも気に止められず、毎日文書を書き写す仕事をしていた。彼の住むペテルブルグでは冬の寒さが厳しく、外套なしにはいられなかった。アカーキイは、これまでツギを当てながら着ていた外套を1年間倹約して新調する。夜会に招かれたアカーキイは帰り道、何者かに広場でその外套を奪われてしまう。アカーキイは勅任官に外套の捜索を頼もうとするが、逆に叱りとばされてしまい、ショックで熱を出して死んでしまう。その後、町の橋のたもとに、外套を探すアカーキイの幽霊が出没するようになる。アカーキイの幽霊は以前会った勅任官に再会し、彼の外套を奪うと、二度と現われなくなった。

(3)父と子(ツルゲーネフ)ーあらゆる権威を否定し唯物主義を唱えるニヒリストとしてのバザーロフの生き方を描く

・大学を卒業したアルカーヂィは友人で医師を志望しているバザーロフを連れて父ニコライの農場に帰って来た。バザーロフには、理想を唱え、無益に時間をつぶしているニコライや彼の兄のパーヴェルが時代遅れに見えた。ある日、バザーロフとアルカーヂィは舞踏会で、美貌で知性を備えた未亡人オヂンツォーワと知り合う。バザーロフは彼女に愛を告白するが、結局彼女の自制心に抑えられて恋は実らず、傷ついて両親のもとに帰る。故郷でバザーロフは医学の勉強をしようとチフスで死んだ死体を解剖するが、誤って指を傷つけて感染してしまう。死の床につくバザーロフのもとにオヂンツォーワが駆けつけるが、彼女には変り果てたバザーロフを愛する感情は見い出せなかった。年老いた夫婦はバザーロフの墓を訪れ、彼らの息子のことを思い出すのだった。

(4)はつ恋(ツルゲーネフ)-自らの両親をモチーフに用い、ヴラジーミルのはかない想いを描く恋愛小説の古典的名作

・ヴラジーミル・ペトローヴイチは、友人に依頼されて、自分の初恋の思い出を綴った。16才の時、彼は両親とモスクワの郊外の別荘に住んでいた。ある日、別荘のはなれに、夫を失い、今はすっかり没落してしまったザセーキナ公爵夫人と美しい令嬢ジタイーダが越してきた。公爵夫人のもとに使いに行ったヴラジーミルは、多くの男に取り囲まれて明るく振る舞う4才年上のジタイーダに恋をしてしまう。以来、毎日のようにヴラジーミルは勉強を放り出して、はなれに通う。そんなある晩、ヴラジーミルは父がジタイーダのもとに通っているのを目撃する。数日後、彼女の取り巻きの1人からヴラジーミルの母親に2人の関係を暴く手紙が届けられ、ヴラジーミル一家は別荘を発つ。数年後、ヴラジーミルの父は急死し、大学生を卒業したヴラジーミルは、結婚したジタイーダに会う機会を得るが、彼女は面会の4日前にお産で急死していたこと知る。

(5)罪と罰(ドストエフスキー)-人間の罪について問いかけ、人間性の回復を訴える不朽の名作

・貧しい大学生のラスコーリニコフは独自の犯罪哲学に基づき、意地の悪い質屋の老婆を斧で殺害するが、偶然居合わせた老婆の妹のリサヴェーダまでも殺してしまう。殺人事件を担当した予審判事のポルフィーリィは、ラスコーリニコフを犯人と確信するが証拠を掴めない。ペテルブルグにルージンとの結婚のためにラスコーリニコフの妹のドゥーニャがやってくる。ラスコーリニコフは、ルージンが娼婦のソーニャに悪行を働いていることを知り、妹の結婚を破談させるが、自分が殺人を犯したことを妹に話しているのを、ドゥーニャを付け回す男スヴィドリガイロフに立ち聞きされてしまう。スヴィドリガイロフは兄の秘密をばらすと、ドゥーニャを脅迫するが、拒絶されピストルで自殺を図る。ラスコーリニコフはソーニャの献身的な愛に心を打たれて自らの罪を認め、自首してシベリアに送られて行き、ソーニャも彼の後を追う。

(6)カラマーゾフの兄弟(ドストエフスキー)-神の存在を問い、フョードルの殺人事件の真相の行方を追う

・放埒で女たらしの地主フョードル・カラマーゾフが殺された。彼には3人の息子がいて、みな父に殺意を抱いていた。長男のドミートリは放蕩者で母の遺産を相続しようと町に来ていて、父の愛人のグルーシェンカを奪おうとしていた。次男のイワンは無神論者で大学を卒業して町に戻り、兄の婚約者のカテリーナを慕っていた。3男のアリョーシャは純真な聖者で、僧院でゾシマ長老の教えを受けていた。殺人の起こった日、ドミートリがフョードルの金を持っていたため犯人として逮捕されるが、彼は一貫して無実を主張する。フョードルを殺したのは彼の私生児で下男のスルメジャコフであり、イワンの無神論を信じて、自分が癲癇持ちであることを利用したのだった。スルメジャコフはそのことをイワンに告げて自殺を図る。裁判の席でイワンは自分がスルメジャコフに父を殺させたと言い、カテリーナは罪を認めるドミートリの手紙を公開してグルーシェンカと争う。結局ドミートリは無実の罪をかぶってシベリア送りとなる。

(7)戦争と平和(トルストイ)-19世紀初頭のナポレオンの遠征前後のロシアを舞台にした壮大な歴史小説

・1805年フランスとロシアの間で戦争が起こる。ボルコンスキイ家のアンドレイは身重の妻を残して、オーストリアの戦地へ赴いた。アンドレイの友人で留学から帰ってきたピエールは、膨大な遺産を相続してベズーホフ伯爵となり、クラーギン伯爵の令嬢エレンと結婚する。アウステリッツで旗を掲げて敵に突進したアンドレイは負傷し、戦場で意識を取り戻して空を見上げ、全てのものが空虚だと思う。ピエールは妻の浮気相手のドロホーフを決闘で倒し、エレンに財産を分けて別居する。その後ピエールはフリーメーソンの教えに従い、農奴解放を進める。アンドレイは妻が男児を出産して亡くなり絶望する。1809年アンドレイはロストフ家の令嬢ナターシャと知り合い、やがて二人は1年の猶予を条件に婚約する。その間にナターシャはエレンの兄アナトーリに誘惑され、駆け落ちに失敗して婚約は破談になる。1812年再びフランス軍がロシアに侵攻し、アンドレイは戦地で重傷を負う。ついにナポレオンの率いる軍隊がモスクワに迫り、ロストフ家も混乱した都を負傷兵とともに脱出する。その中にアンドレイを見つけたナターシャは、罪の許しを請いアンドレイを看 病するが、その甲斐もなく彼は息を引き取る。ピエールはモスクワに残り、ナポレオンを暗殺しようとするが失敗して捕えられる。厳しい冬が訪れナポレオンは退却し、ドロホーフにより敵から解放されたピエールは、その後ナターシャと結婚する。

(8)アンナ・カレーニナ(トルストイ)-幸福な家庭はみな似たものだが、不幸な家庭はみなそれぞれ不幸なものである

・高官の妻アンナカレーニナは、兄オブロンスキイと妻ドリイの家庭の危機を救うためにモスクワへやって来る汽車の中で青年将校ウロンスキーと知り合う。ドリイの妹のキティは地主のレーヴィンの求婚を断わり、ウロンスキーにプロポーズされるのを待っていた。舞踏会でアンナはウロンスキーと再会し、楽しそうに踊る彼らの姿を見たキティは深く傷つく。レーヴィンは領地で農業経営に没頭し、キティを忘れようとしていた。ペテルブルグへ帰るアンナをウロンスキーは追い、やがて二人は愛し合うようになる。アンナは懐妊するが、離婚を決心できずにいた。ウロンスキーが競馬で落馬したのを見て、アンナは取り乱し、夫に全てを告白する。オブロンスキイの家でレーヴィンはキティと再会し、愛を確信した二人は結婚する。産褥熱で生死をさまようアンナを見て夫は全てを許し、ウロンスキーは自殺を図ろうとするが失敗する。一命を取り止めたアンナは、ウロンスキーと駆け落ちするが、ロシアに戻って来た二人に社交界は冷たかった。もはやウロンスキーだけが生き甲斐となったアンナは、絶望して汽車に飛び込み自殺する。ウロンスキーは私兵を率いて戦 地に赴く。

(9)復活(トルストイ)-ネフリュードフとカチューシャの恋を描くトルストイ晩年の作品

・ネフリュードフは裁判の陪審員として法廷に出た。そこで彼は客を毒殺し金品を盗んだ罪で捕まった娼婦を見て愕然とする。彼女はかつてネフリュードフの叔母の家で家政婦をしていたカチューシャであった。彼女はネフリュードフと恋仲にあったが、彼に棄てられて堕落してしまったのだった。無実の罪をかぶってシベリア送りとなったカチューシャに対してネフリュードフは、過去に自分が犯した罪を償おうと、手を尽くしシベリアまで追いかけて行く。やがてネフリュードフの苦労が実って、カチューシャに対して判決取消しの特赦が下るが、朗報を伝えるネフリュードフに、彼女は政治犯のシモンソンとともに生きるつもりであることを告げる。もはやカチューシャにとって自分は必要のない存在であると感じたネフリュードフは、一人ホテルで聖書を読み、人間として復活することを決意する。

(10)赤い花(ガルシン)-良心のために社会の悪と戦い悲劇的に死んでゆく人を狂人にたとえて描く

・一人の狂人が精神病院に収容された。暴言を吐き、服をズタズタに引き裂き、目を充血させたその男は、医師の治療を拷問と思い、暴れまわって気を失う。翌朝、目を覚ました男はガラス窓越しに、庭に咲く赤いケシの花を見つけて、それを地上の悪と考えて激しい憎悪を抱く。監視員の目を盗んで花を摘み、枷をはめられる。男は鉄格子をねじ曲げて庭に出て「最後のやつだ。勝つか負けるかだ」とつぶやき、ケシを根から引き抜く。翌朝、男は死体となって発見されるが、彼の顔には幸福の色が浮んでいた。

(11)ドクトル・ジバコ(パステルナーク)-ロシア革命の動乱の中を生き抜くジバコとラーラの悲恋を描く大作

・裕福な資産家の家庭に生まれたユーリィ・ジバコは、母の死後モスクワの叔父の家に引き取られて、娘のトーニャと一緒に育つ。ジバコは医師になり、トーニャと結婚し、軍医として第一次大戦に参加、戦地で不幸な過去を持ち、夫が行方不明になっている看護婦のラーラと知り合う。間もなくロシアに革命が起こり、ジバコは混乱したモスクは離れて妻子を連れてウラルのワルイキノに移り、農業と詩作にふける。町の図書館で偶然ラーラと再会したジバコは、彼女を深く愛するようになるが、ある日バルチザンに捕えられてシベリアに医師として連れて行かれてしまう。バルチザンを脱走したジバコはラーラのもとに再び走る。革命軍の指導者になっていたラーラの夫ストレーニコフが逮捕され、危険を察知したジバコは、ラーラを安全なイルクーツクへ移し、一人モスクワに隠居して、ジバコ詩編を残して死ぬ。

(12)ガン病棟(ソルジェニーツィン)-作者の入院の経験をもとにガン病棟を通じて病める社会を描く

・パーヴェル・ニコラーエヴィッチ・ルサノフは頚にできた悪性腫瘍の治療のため、タシケントにある総合病院のガン病棟に入院する。彼の病室には様々な人生をたどって来た患者がたくさん入院していて、死の恐怖にかられながらも必死に生きようとしていた。ある日、ラーゲル(強制収容所)から出てきた男コストグロートフが入院する。彼はルサノフと社会主義の思想をめぐり激しく対立する。効果のない治療しか受けられず、多くの人が死んで行く中、ルサノフは奇蹟的に回復して退院する。コストグロートフは入院生活に見切りをつけて退院し、献身的に治療をしてくれた女医のガンガルトの誘いを断わり、理想の町ウシテレク行きの列車に乗る。

(13)イワンデニソヴィチの一日(ソルジェニーツィン)-スターリン暗黒時代の収容所の一日を描く

・午前5時、起床の鐘でラーゲル(強制収容所)の一日が始まる。シューホフは戦争中ドイツ人に捕まり、脱走したところを森で見つかり、10年の刑を受けたのだった。シューホフはその日、寝過ごして看守室の掃除をさせられる。食堂で野菜汁、粥とパンの朝食をとると、零下27℃の屋外でのブロック積みの仕事が待っている。昼食の粥をごまかして2人分食べることに成功し、午後はまたブロック積みの仕事をする。こうして、日暮れとともに宿舎に戻り、夕食を済ませてベッドに入ったシューホフは、その日一日を楽しく過ごせたことに満足して眠りに落ちるのだった。


6.その他

(1)薔薇の名前(ウンベルト・エコー)-イタリアの記号学者が描く絶品のミステリー小説

・舞台は14世紀のメルクにある山上の僧院。次々に起こる殺人事件を修道士ウィリアムと見習僧アドソが解明するまでの7日間の物語。事件の背後には迷宮で立ち入りが禁じられている文書館、アフリカの果て、ヨハネの黙示録、異端者。そして二人が一冊の書物(アリストテレスの詩学二部)を追って、アフリカの果てと呼ばれる文書館の隠し部屋に入り込んだとき、真犯人と全ての謎が明らかになり、僧院は炎に包まれる。年老いたアドソは、「過ぎにしバラは名前のみ、空しきその名前が残るのみ」と記し、神の存在を暗に無と懐する。

(2)百年の孤独(マルケス)-羊皮紙に書きしるされたブエンディーア家の百年の繁栄と滅亡の物語

・ホセ・アルカディア・ブエンディーアの作った南米の村マコンドに、メルキアデスというジプシーが現われる。以来ホセは文明病に取りつかれて、無益な実験に明け暮れる。やがて村に不眠症がはやり、村人はみな痴呆に陥る。メルキアデスが再び現われ、彼の薬によりホセは記憶を取り戻す。メルキアデスはそのまま居座り実験室で何かを書き始める。狂暴になったホセは、妻のウルスラに庭の木に縛られ風雨に打たれて朽ち果てる。弟のアウレリャーノは戦争に行き大佐となり、17人の息子は次々にテロにより殺される。ウルスラから4代目の娘メメは、村の近くにできたバナナ工場の男との結婚が許されず修道院に行く。数ヶ月後修道女が赤ん坊を村に置いて行く。その子はアウレリャーノと名付けられ実験室で育つ。4年11ケ月2日雨が降り、10年旱魃が続き、村は荒廃し、ウルスラは120歳を超えて死ぬ。やがてアウレリャーノは、ブエンディーア家の最後の生き残りのアマランタ・ウルスラと結婚して、子供が生まれる。母子ともに亡くなり、アウレリャーノは蟻に運ばれる子供を見て、メルキアデスの羊皮紙に書かれた「この一族の最初の者は樹につながれ、最後 の者は蟻のむさぼるところとなる」の意味を理解する。

(3)阿Q正伝(魯迅)-最下層の人間を通じて中国の封鎖的な社会状況を描く

・未荘の村に住む人の良い日雇い農民の阿Qは、ある日、趙家でもちつきの仕事にありつく。女中の呉媽にうっかり手を出したことから、村を追放されてしまう。城内で賊に係わって大金を手にして、阿Qは未荘に帰ってくる。やがて革命党の入城に合わせて、未荘では趙家に強盗が入るようになる。革命党にかぶれていた阿Qは見せしめに逮捕され、無実の罪をかぶって処刑される。刑場に連れて行かれる阿Qを見て人々は「銃殺は首斬りほど見ても面白くない」と冷淡に話すのだった。

(4)駱駝の祥子(らくだのシャンツ)(老舎)-人力車夫の祥子の人生の喜怒哀楽を描く

・北平の町で車夫をする祥子は真面目に働いて、念願の人力車を手に入れる。ところがある日、兵隊たちに車もろとも連行されてしまう。3頭のラクダを連れて脱走した祥子は、途中それを売りさばいて北平に戻る。劉親方のもとで再び車を引き始めた祥子は、親方の娘の虎姙に見初められて結婚するが、きゃしゃな虎姙にはお産が重く、虎姙は子供とともに亡くなってしまう。葬式の費用で車を手放し、途方にくれた祥子は、かつてお抱えとして世話になった曹先生のところに相談に行く。しかし、最後の望みであった愛人の小福子が自殺し、祥子は生きがいを失い、落ちぶれて行く。



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